そんなミルシテインやハイフェッツを評価したオーストリア出身の世界的ヴァイオリニスト、フリッツ・クライスラーは1875年ウィーン生まれ。7歳でウィーン高等音楽院に入学、10歳で首席で卒業、さらにパリ高等音楽院に入学し、12歳で首席で卒業という天才でした。
1923年に来日しましたが、演奏会の入場料は高く、当時大卒の初任給が50円の時代に15円もしたそうです。が、それに見合う以上に演奏も素晴らしかったとのこと。1950年に引退したのですが、それ以降も後進への支援を惜しまない人格者でもありました。そんな人格が端的に表れているのが自作曲「愛の挨拶」。この作品は数多くの奏者が取り上げていますが、自身の演奏が「原点にして頂点」という意味でも大変貴重な遺産です。クライスラーはRCAの録音が多く、たくさんの名演奏を聴くことができるので、私たちはとても幸運だと思います。一方で音色や情緒を重んじる当時の時代感にありながら、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲のように決してそこだけに流されることのない音楽の本質を描き出す普遍性をも十分に持ち合わせていたと言えます。さすがに戦前の奏者ゆえ、現代と比べれば残っている音源も限られていますが、1926年に録音されたメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲をお聴きください。先に聴いていただいたミルシテインのそれと引けを取らないころが良く分かります。