· 

842 多田図尋常小学校の人々 「相手を好きになるだけでなく敬うという気持ち」



 

●3限目 社会
相手の尊厳を大切にする
〜ファインダーを通して
       見えてきたこと〜    
津村和比古さん (映画カメラマン)
                                        
 今回のゲストは大倉山ドキュメンタリー映画祭に上映された、
藤沢の精神障害者施設の日常を捉えたドキュメンタリー映画「かぐやびより」の監督をされた
カメラマンの津村和比古さんです。この映画の暖かい眼差しや、上映後の監督トークも素敵だったので、尋常小学校のゲスト講師をお願いすると快諾していただきました。
  ・     ・    ・
大学でアワビの研究を・・
 私はもともと水産大学の学生で、水産研究所でアワビの蓄養の研究をしていました。研究の記録のため
の水中撮影をするのですが、その時、撮影の面白さに目覚め、卒業後には出版社系列の会社の撮影部に撮影助手として入社しました。撮影助手というのは35/16mmのカメラにフィルムの装填や交換をしたり、巻尺を持って被写体との距離を測ったり、ピント合わせなどが仕事です。フィルム代も高くロケには費用がかかっているので、ちゃんと取れたかどうか、撮影フィルムの現像結果がわかるまで緊張が続くんです。そのためか、よく飲みに行ったりしました。
ピンチヒッターの撮影から
 ある時、ビール会社のCM撮影でチェコスロバキアのロケに行くチームのカメラマンが歯痛で行けなくなり、急遽、私が駆り出されて撮影することになりました。初めての撮影だったので夢中で撮ったのですが、そのカットが監督にとても気に入られ、それがきっかけで制作会社の助手から、思い切って独立してカメラマンになることになりました。独立してから何でもやったのですが、カメラマンの最初の仕事は大手生命会社のCMでした。そのうちテレビ番組の仕事もやるようになります。CM制作では全てのカットが指示してある絵コンテがあり、それに基づいて撮影するのですが、番組制作ではかなりカメラマンに任されていて自由に撮ることができます。これは面白かったです。さらに音楽家と世界中を回って、そこの音楽を紹介するというテレビ番組にも呼ばれて、世界中をロケで回ることがありました。その時、音楽は民族や国境に関係がなく誰でもが楽しめることができることを痛感しました。この番組は3年続きましたが、世界中を回って好きに撮影ができる。とにかく楽しかったですね。

 

人間の尊厳について
 *後日、津村さんから「人間としての尊厳」についてのコメントを頂きましたので紹介いたします。
        ・     ・     ・

 先日は有難うございました。「人間の尊厳」という言葉で表現するには深淵なテーマで、何を話せばよいのか戸惑いました。事前にフォトジャーナリストのフォトドキュメンタリー「人間の尊厳」~この世界の片隅で~やサルガドの写真集を見直したりしましたが、彼らの言葉に「人間の尊厳」というフレーズは出てこないのです。つまり彼らの撮影した写真や、対象に接するときの姿勢からそれを感じると言うことだと思います。私の言葉が足りなかったのかもしれませんが・・・
 アメリカでローズマリーという生まれた時に仙骨発育不全症で、幼くして両足を切断した女性の生活を撮っていました。何度目かのロケの最中に彼女の母親が末期癌になり、ベッドサイドで母と娘が静かに語り合うシーンがありました。そのような状況の時、カメラはどこにいて何をどう撮れば良いのか、どこまで接近出来るのかとかを考えるわけです。それは自分自身を試されているような時間でした。その後にローズマリーは私の動きを見て、そして映像を観て信頼感、安心感を感じたと言ってくれました。そこに映っていた母親の姿や表情に「人間としての尊厳」が映し出されていたということかな思った次第です。相手を好きになるだけでなく敬うという気持ちが必要なんだろうと改めて学びました。
       ・   ・   ・
感想
 まず津村和比古さんの感想です。
中城さん始め、お二人と話が出来て良かったです。
エンジニアの方はすごい博識、正にプロですね。
以前スイスでバッハ祭を撮影したことがあって、以来ピアノとは違う優しく軽やかなチェンバロの響きは大好きです。畑から参加の坂梨さんはとても優しく穏やかな印象、日々自然と接している豊かさを感じました。有難うございました。
 続いてあるFM放送局で番組制作に関わっているプロの音響エンジニアT.engさんの感想です。
一線級の人の現場話はいつ聴いても真に迫っているように感じます。レンズ越しだからこそ見える世界というものが何よりも新鮮で楽しいのです。似たような業界にいる私もマイク越しに人隣りが見えてくる体験をするのでなおのことそう感じるのだと思います。
 最後に無農薬野菜生産者で畑から参加された坂梨勝一さんの感想です。
●津村さんは第一印象、とても優しい雰囲気の方!
写真や映像の撮影に、「相手を好きになること」が大切だとは!目からウロコのお話しでした。新作ができたら、すぐに観ますよ!
   ・   ・   ・
素敵なお話をありがとうございました。
新作ができたらまたお話を伺いたいと思います。