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845 多田図尋常小学校の人々「次はイ・ムジチとエウローパ・ガランテの『四季』です」


●2限目 音楽
「Coffee Break Music In Tadaz」 
本日のバリスタの気まぐれブレンド
「チェンバロ中興の祖と    チェンバロ新生代」
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ランドフスカとピノック
 T.eng氏(音響エンジニア/趣味オーディオ、PC製作、鉄道 etc.)
 古楽器チェンバロを生き返らせたポーランド生まれの演奏家、ワンダ・ランドフスカと、新鋭の英国のチェンバリストのトレヴァー・ピノックを取り上げました。
 チェンバロは15世紀からヨーロッパで広く使用された、アラビア発祥の爪で弦を弾く鍵盤楽器ですが、18世紀に、より豊かに表現ができ、広い演奏会場でも対応できる音量を持つピアノが誕生してから急速に衰退していきます。ところがこの流れを変えるべくイギリスでチェンバロをはじめとするさまざまな古楽器を研究復元していたアーノルド・ドルメッチは古い曲を当時の古楽器で演奏する活動を通して古楽を再興しました。
 ワンダ・ランドフスカは1879年にポーランドのワルシャワで生まれ、4歳でピアノを始め、13歳でピアニストデビューして、19歳でベルリンでさらに勉強、21歳でパリで教鞭を取り、結婚した夫の影響でチェンバロに関心をもち、24歳でチェンバリストとしてデビューします。翌年、チェンバロによるバッハの演奏会を開き高い評価を得ることができました。使用するチェンバロもフランスの楽器メーカーに特注して初のモダーンチェンバロを作りました。1913年にベルリン高等音楽院で教えましたが、第二次世界大戦勃発を機に1939年にアメリカに移住し、1941年には市民権を獲得し、1959年に亡くなりました。彼女の演奏は学術考証的に批判されたりしましたが、楽しみながら演奏するスタイルは、チェロのカザルス同様、チェンバロ再興の祖と位置付けられています。演奏曲も昔の曲に拘らず、プーランクなどにもチェンバロの独奏曲を依頼するなどもしました。ピアノ演奏家としての評価も高く、モーツァルトなども彼女独特のワクワクするようなリズム感があります。演奏では派手なアクションで、それを嫌ったトスカニーニから共演を断られてしまいました。彼女のチェンバロが20世紀の音楽に与えた影響は大きく、ポール・モーリアも映画音楽でよく使ったほどです。

 もう一人のチェンバリストでオルガニストのトレヴァー・ピノックは1946年イギリスのカンタベリーで音楽家の両親の元に生まれ、恵まれた環境で育ちました。19歳でロイヤル音楽大学に入学してチェンバロとオルガンを学び1971年にはソロのチェンバリストとしてデビューしました。

 

演奏はバッハ、ヘンデルからプーランクまで、対応できるモダンチェンバリストとして活動していましたが、限界を感じ、1973年には古楽器の演奏団体、イングリッシュ・コンサートを立ち上げて、バロック音楽の現代的な古楽器演奏を追求し始めました。バーンスタインにも高く評価され、1989年にはニューヨークにて演奏します。さらにドイツグラモフォンと契約して、チェンバロやフォルテピアノなどのピリオド楽器を使って、ハイドンの作曲時の楽器による演奏に取り組みました。1966年にはオタワ交響楽団の音楽監督に就任しつつ精力的に活動しました。2002年にイングリッシュ・コンサートの音楽監督を後進に譲ってからはソリストとして活動しています。ピノックの才能はバロック音楽にとどまらずプーランクなどの現代作品でもいかんなく発揮され、「ピリオド楽器」の解釈がただの時代考証にとどまらず、現代流に再構築できるセンスがあります。

 また、ピノックらの活躍を受けてモダン楽器を中心に扱う奏者にも変化がありました。例えばベルリン・フィルを率いていたサイモン・ラトルが2002年に発表したベートーヴェン交響曲全集では「ピリオド・スタイル」から得られた研究結果や奏法、解釈を取り込んでモダン楽器でも新たな方向性を生み出すことに成功しています。

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参加された井上麻子さんの感想です。
「私は学生時代に吹奏楽でテナーサックスとバリトンサックスを担当していたので音楽は好きです。今回の音楽の授業は、まるで FM放送を聴いているようでとても楽しめました。格式のある演奏ばかりと思っていたチェンバロの全く異なる世界を見せていただき、それも対照的な二人の聴き比べまでできて、とても面白かったです。ありがとうございました」

次に校長(中城)の感想です。
「昔、音楽の授業で聴いたチェンバロは、上品で細やかな演奏だけと思っていましたが、ランドフスカの情感溢れる情熱的な演奏や、ピノックの桁外れでダイナミックな演奏を聴くと、チェンバロに対する思い込みが溶けていってしまいました。
 そしてなにより一旦滅びかけた?チェンバロが、現代、一般の人でも聴くことができるのは、古楽器を復元したアーノルド・ドルメッチ、さらに昔にとらわれずに命を吹き込んだランドフスカ、そのチェンバロを使って新たな音楽の可能性に挑戦し続けるピノック、この3人の存在があればこそだと、知ることができたのもよかったです
最後にT.eng氏の一言感想です。
⚫︎次回はイ・ムジチとエウローパ・ガランテの『四季』の聴き比べを取り上げます。