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849 多田図尋常小学校の人々「自分の頭が整理されていないことを改めて感じた時間でした」


●2時間目 社会
  
「百人力って何?」
  
 
        〜新しい住まい方の提案〜

 澤岡詩野さん
  (ダイア高齢社会研究財団主任研究員
   /自宅玄関先でマイクロ図書館を運営)
多田図尋常小学校の立ち上がり時から支援していただいた澤岡詩野さんに多田図尋常小学校開校一周年記念特別授業をお願いしました。
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 私は長年、高齢の方の問題を研究してきました。十数年前にある講座で瑠璃川正子さんという年配の女性と出会い、彼女はご両親の介護体験を踏まえて地域に開く賃貸住宅を建てて、地域とのゆるい繋がりを作る「百人力プロジェクト」を立ち上げました。そんな瑠璃川さんと現在も月に1回以上、荻窪まで出かけてお会いしています。この12年間の発見や成果を、論文という形で世に問うこともありと思いますが、できるだけ多くの方に手渡したいと思い、読みやすい本を出すことにしました。題して「百人力の見つけ方」。豊かに生きて暮らすためのお手伝いをする人に必要な情報が入っています。文字も大きくしています。本好きの私の母が30分くらいで読み終えて「いいね」と言ってくれました。まだアマゾンでは予約受付ですが、よろしくお願いします。
新しい住まい方
「豊かに歳を重ねる」「100歳まで生涯現役」などと国もキラキラした言葉で呼びかけています。十数年前に、そんな派手な言葉に違和感を持つ人々と、緩やかに出会った時に、私の研究テーマはこれで行こうと思いました。
 ごく普通の主婦だった瑠璃川さんは4人の親御さんを看取って介護を終えた時に、自分はどうなるだろうと不安に思ったそうです。親たちの時代は収入も、ご近所付き合いもそこそこ問題ないし、そんなに意識せずに終わりを迎えられた。でも私たちはこれから稼げるわけでもないし健康も不安です。何か困った時に助けてくれる人、例えば日常で落ち込んだ時に笑い合ってくれる人がいないのです。大人も子どもも障害を持つ人も含めて、みんなが風のように元気で行き来できる、そんな場が欲しいと思いました。でも繋がりの少ない街の中にどうやって作ればいいのでしょうか。行政の提供する仕組みは今ひとつ面白さにかけ、ワクワクしないのです。
 戦前の荻窪は、中央線は通っているけど、道はぬかるんでいて今のお洒落な感じではなかったんです。そんな時代にご両親は家とアパートを建てたそうです。親御さんから受けついだその家も老朽化して立て替える必要が出てきたときに、今だと閃いたのです。「場と繋がりを作って一緒に住むこと」を、自分の生活に持ち込むチャンス。私は、そんな瑠璃川さんと一緒に建設資金を借りようと資料を作ってメガバンクにプレゼンに行ったのですが、ほとんどが「そんな訳のわからないものを作るより普通の賃貸アパートを建てましょうよ。確実に賃貸収入も入りますし」と冷たい反応でした。「豊かに歳を重ねる」というキャッチフレーズには違和感があるのは、前提として十分なお金と健康が要求されるんですね。
4つの誤解
それまで研究で多く高齢者とお会いして伺ったお話を整理すると、4つの誤解があることに気がつきました。
①繋がらなければならない。
行政からも、ご近所で仲良く支え合うために、強い繋がりをしっかりと作ることが求められます。でも放っておいて欲しいときに放っておいてくれる、そんな適当な距離感も大事です。お互いがつらくならない程度に、ちょっと共感しているそんなレベルです。
②誰かのために生きることこそステキ
確かに自分のことだけでなく人様のために生きるのもありと思います。でも滅私奉公で地域のためだけというのも白けてしまいます。まずは自分が楽しんで、その延長でちょっと手助けをする方が無理がないし、楽しく続きそうです。

 

 

③人の世話にはならない

それまでお会いした高齢者の9割が、人の世話になりたくないと言われます。でも本当に必要な状況で、必要な援助を得るためには「助けて」と早めに言って置かないと、状況をこじらせることにもなります。ご自分で会社を立ち上げられた方や、大企業の管理職だった方にとって、人の手を借りないで自立していることが気持ちの支えになっているのです。でも必要な時に人の手を借りながら、やりたいことをやることこそ自立だと思います。私のご近所でも大手企業を退職された方で奥様が認知症になってから、介護サービスを拒否されて全ての家事をご自分でこなされていた方が、突然なくなって、奥様も施設に入られたケースもありました。
④最後は施設や専門家に任せれば安心
 実は専門家がやることはほんの一部なのです。生活力が十分に残っているのに、衣食サービスが整った施設に入った途端に生きる気力がなくなる場合があります。残っている力をどう活かしていくかが大きなポイントです。それは自分がどう死にたいか、つまりどう生きたいかという問題なのです。一日、家にいると不安になるけど、友達と笑いあったりすると安心する。最後までそんな関係を持ちたいのですが、それは一人ではできません。揺らぎながら何かあれば周囲の方の助けを借りる。それが百人力です。荻窪の仲間達が目指していることです。
誰でも始められる百人力
 瑠璃川さんは覚悟をして、多額の借金を担ってこの試みを始めましたが、経営も楽ではありません。でも瑠璃川さんだからできるなどと考えないでください。これは考え方なのです。家がなくても、日常のちょっとしたことで百人力のタネをまけるのです。かくいう私も、ご近所付き合いが苦手なのですが、玄関先に箱をおいてマイクロ無料図書館をやっています。自分の家から1.5歩出てみる社会実験です。先日、日除けシェードが強風で飛んで行ってしまったのですが、いつの間にか畳んでおいてありました。それを見てぐっときました。私の小さな試みにご近所の方が応援していただいているのですから。これも私の種蒔きです。駆け足でしたが、ありがとうございました。
荻窪家族プロジェクト(瑠璃川正子さん)
荻窪家族レジデンス
 
質疑応答
T.eng氏:アマゾンで「百人力の見方」をチェックしているのですが、購入できません。
澤岡さん:まだ予約段階だと思います。近くの本屋さんも注文していただいて、本来の本の流通に乗ると、流通で人目について嬉しいです。
「人の世話にはならない」ところでもお話ししましたが100歳の方が孤独死していた事件を知ったときに思ったのですが、この介護サービスを受け入れない頑なさはどこから来るのでしょうか。
T.eng氏:視野が狭いのです。周囲の人が気にしていないのに人の助けをえることが見苦しいと思ってしまう。人はそんなこと全く気にしていないと言いたいですね。あまりに自分は少数派でいいと格好つけていると、それが周りの迷惑にもなりかねませんし。
澤岡さん:それは教育の影響ですかね。そういえば知り合いのイギリス人から「こんな地震の多い国によく住んでいられるな。日本人が信じられない」と言われたことがあるのですが、天災の多い日本だからこそ、サバイバルするために団結や均一性が求められるのでしょうか。
T.eng氏:地域性だけでなく宗教や難民問題も繋がっているのかもしれません。
 
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澤岡さんの感想
 先日はありがとうございました!
なかなかうまく語れず、まだまだ自分の頭が整理されていないことを改めて感じた時間でした。
 
校長の感想
 多田図尋常小学校開校記念授業として澤岡さんに、ご自身の新刊本一冊分を40分で語るという大技に挑戦していただきましたが、ありがとうございました。駆け足ながら澤岡さんの思いは十分伝わってきました。今回を受けて次回はさらに膨らませていきたいと思います。よろしくお願いいたします。