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878 多田図尋常小学校の人々「大切にしていることは安全第一です」


●2限目 社会
視覚障がい伴走の世界
なりゆきで見えない人の伴走をすることになり、
                                    カミさんとも出会うことに
     田中陽介さん
   カラーユニバーサルデザイン機構副理事長
 校長(中城)は2011年の東日本大震災から井上清三さんが始めた夏の被災地歩きで、田中陽介さんと出会いました。田中さんはフットワークが軽く、聞くとトライアスロンをやられていて、さらに視力障害者の方のランニングをサポートする「伴走」もされているとのことでした。今回はその伴走について伺いました。
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 田中陽介です。校長の中城さんから「今、田中さんが一番のっていることについてお話ししてください」と頼まれたのですが、現在、土日はほとんど視覚障害者の伴走をやっているので、その伴走についてお話しします。
伴走との出会い
 私がクロール25メートル泳げるようになったのは、おとなになってからで、水泳は面白かったので、やがて遠泳を始め、気がつくとトライアスロンをやっていました。そして10年くらい前に仕事で様々な色の見え方をする人が大勢集まって作業をした時に、一人のロービジョン(低視力の視覚障害者)の方が「この中で走る人はいますか。伴走者がいつも不足して困っているのです」と呼びかけられたのをきっかけに伴走することになりました。
伴走、伴泳、自転車、トレイルラン
 初回の伴走では、見えない人のランニングを体験する意味でアイマスクランをするのですが、見えない人はこんな不安の中で走るんだと驚きました。伴走はお互いのペースやリズムを合わせる必要があるのですが、私は相手にあわせるのが苦にならず、わりとスムーズに始められました。私の所属している団体(バンバンクラブ)は代々木公園を中心に活動していますが、ロッカーやシャワーのある新横浜の障害者施設ラポールをベースに新横浜公園を走っている人も沢山いて、横浜市民である私自身ももっぱらそちらを走っています。伴走は輪になったロープをお互いに持って状況を伝えながら走るんですが、トライアスロンでは水泳と自転車が加わります。水泳ではお互いに体をゴムベルトやチューブで結んで伴泳します。伴泳は普通のプールではできないため、海か費用のかかる流水プールで練習するしかありません。自転車はタンデム自転車を使用します。今年ようやく東京、神奈川でも公道走行が解禁されましたが、解禁前は規制を逃れるため私は三輪のタンデム車を使っていました。走る、泳ぐ、自転車のトライアスロンどころか、山を走るトレイルランに挑戦した視覚障害者もいます。長谷川武さんという方です。彼は視野が狭く周辺視野がほとんどないので山を走るのはかなり無謀といえるのですが、それでもストックを使ったり、伴走者が前後に挟んで声かけしつつ、前走者が熊鈴や黄色のビブス(派手な色のベスト)をザックにつけたり、さまざまな工夫をしながら挑戦していました。伴走はほとんど下見はしないのでぶっつけ本番です。山では伴走の指示が一瞬でも遅れると危険なので、使う言葉は短く、危険なことから簡潔に瞬時に伝えるなど、通常の伴走以上に集中力が必要でたいへんです。残念ながら長谷川さんが病気で亡くなられてしまい、現在、トレイルランをされている視覚障害の方はいません。
大事なことは「安全第一」
 今回、校長さんから私がなぜ伴走をやり続けているのかと聞かれて、改めて考えてみました。トライアスロンなど長時間のスポーツは、とにかく自分との戦いでとても孤独なんですね。でも伴走は走っている間ずっと話すことができます。とにかく寂しくない、これが大きいですね。また相手がいるので少々疲れていても練習をサボりくい。さらには視覚障害を持ちながら高いハードルに挑戦している人たちからは、とても大きな刺激を受けます。そして伴走するたびに感謝されることで、私自身が誰かの役に立てているという自己有用感が持てるなどがありますね。伴走をやっているときに一番大切にしていることですか。それは「安全第一」です。不注意で転んで相手に怪我をさせては話にならないのです。絶対に避けなければいけませんから。
 最後に、これは伴走ではないのですが、11月に東北みやぎ復興マラソンに参加してきました。コースが10年前から井上清三さん達と歩いてきた被災地歩きのコースと近く、思い出しながら走りました。給水所では仙台名物のホタテや暖かい牛タン食べ放題。食べ過ぎて途中でお腹が痛くなったものの、色々と面白かったです。
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井上清三さんの感想です。
 田中さんのフットワークの良さには驚きです。色覚のこと、トライアスロンの事、伴走者のこと、すべて軽いノリから始まっているような。今回の伴走者のこと、初めて詳しく知りました。ホントすごいことになってますね。それを感じさせない田中さんはすごい!「流れるプール、一時間6000円」でふと思いました。なんとあのてっぱいの会顧問のT先生、ご自宅に個人用の流れるプールを作り毎日泳いでいたそうです。けっこう高価な物なんですね。
T.eng氏の感想です。
トライアスロンや山の話を聞いているとWRCラリー選手権での『コ・ドライバー』が連想されました
鈴木智美さんの感想です。
今回は2限目途中からの参加となりましたが、田中さんの視覚障害伴走の世界、大変興味深く伺いました。視覚障害伴走者の方の存在はテレビ番組等を通じて存じてはいましたが、具体的な活動の様子をお聞きするのは初めてでした。競技の世界は私の日常とは離れた世界ですが、日常生活の中にも様々なハンディキャップをお持ちの多くの方がいて、伴走をする方がいない場面でもハンディキャップを克服するための情報を得るために高くアンテナを張っていらっしゃるのだということにも気付かされた時間でした。
またお話の最後のあたりに田中さんがおっしゃっていた、「自己有用感」という言葉が印象に残りました。

田中陽介さんの感想です。
伴走について不特定多数の方へプレゼンしたのは初めてで、あらためて考えるよい機会になりました。
タダーズコーヒーは、数学から音楽まで内容が多岐にわたっていて凄いと思いました。