「オペラ界の二大巨星」
〜カラスとパヴァロッティ〜
T.eng氏(音響エンジニア/
趣味はオーディオ、パソコン製作、鉄道 etc.)
これまでオペラ界には華々しい歌手が数多く存在します。その中で誰もが知っている歌手は誰かと聞かれたならばこの二人。オペラ界に咲く大輪のバラ、マリア・カラスと、「存在自体がオペラ」と評されるルチアーノ・パヴァロッティ。カラスが演じる「椿姫」のヴィオレッタやパヴァロッティ演じる「リゴレット」のマントヴァ公などは二人なしでは語れない世界があります。今回はこの二人がスーパースターたる所以に迫っていきましょう。
超絶な歌唱力で
登場人物に血肉を与えたカラス
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マリア・カラスは1923年にニューヨークのギリシャ系移民の両親の元に生まれます。両親は不仲で、1937年に歌の好きな母とギリシアに移り、アテネ音楽院で名歌手エルヴィラ・デ・イダルゴの元で、1日5−6時間の猛烈な練習を重ね半年で高い技術を会得します。1938年にはアテネ王立劇場でデビューし、1947年にはイタリアのオペラ界でデビュー、以降イタリアで活躍します。1950年にはミラノの歌劇場スカラ座でもデビュー、さらに1956年にはメトロポリタン歌劇場でもデビューして大成功を納めます。この1950年から1960年はカラスの全盛期と言えます。カラスは超絶美人で表現力がありましたが、同時にスキャンダルも絶えませんでした。1955年にはシカゴの「蝶々夫人」の公演前後では代理人に訴えられてしまいます。イタリアでもスカラ座に4回公演の予定でいたカラスに無断で、劇場側が5回目の公演を入れてしまいカラスが不在で代役を立てて公演を行い、大騒ぎになったこともあります。1958年にはイタリア大統領も出席する公演を体調不良で途中でキャンセルしたことで大きく非難されました。その年の年末にパリのオペラ座でもデビューします。1960年頃からカラスの声、特に高音域が不安定になってきます。ストレスと不摂生が原因ですが声量も衰えて、次第にオペラの公演が減り、リサイタルに移行していきます。1965年の「トスカ」がオペラ公演の最後となります。また1973年と74年に来日してピアノ伴奏のリサイタルを行いますが、これが最後の公式舞台となり、1977年にパリの自宅で死去します。
カラスの超越的な歌唱力と演技はオペラの登場人物に生々しい血肉を与えました。例えば、それまで装飾的だった「ランメルモールのルチア」の「狂乱の場」も見事にヒロインの悲劇性を帯びるようになったのです。カラスの取り組みによってベルカントオペラの再評価が始まりました。カラスの人生は生い立ち、美貌、才能ともにオペラそのものですが、想像を絶するほどの孤独との戦いでもありました。その意味ではスターの「陰」が見えるタイプの歌手です。1955年にスカラ座で上演された「椿姫」はまさにカラスとヴィオレッタの人生が融合した奇跡の舞台そのものだったのです。
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軽やかな美しさと重厚さを持つ
キング・オブ・ハイC
パヴァロッティ
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もう一人のルチアーノ・パヴァロッティは1935年にイタリアのモデナでパン職人の息子として生まれます。父親はアマチュアのテノール歌手でした。9歳で教会の聖歌隊に入りましたがサッカーも夢中でゴールキーパーをやっていました。一度は先生の道を選びますが同時に声楽を学びます。1961年に声楽コンクールで優勝して、同年オペラのデビューをします。1963年にはウィーン国立歌劇場、ロイヤル・オペラハウス、1964年にはミラノ・スカラ座で、それぞれロドルフォを歌ってデビューしています。1972年のメトロポリタン歌劇場の「連隊の娘」のトニオ役でハイC(2点ハ)を苦もなく歌い「すごい新人が出た」と絶賛を浴び「キング・オブ・ハイC」と呼ばれるようになります。パヴァロッティは高音の軽やかな美しさと、同時に重厚さを持つ声を生かそうと、さらにレパートリーを広げていきます。1990年代には野外コンサートを開催してロンドンのハイドパークには15万人の聴衆が集まりました。ダイアナ妃とも親しく、葬儀で歌うよう依頼されましたが、「悲しくて歌えない」と辞退しました。オペラ界の3大テノールとしてドミンゴ、カレーラスとともに活躍したパヴァロッティは2007年にも脾臓がんでなくなります。
パヴァロッティの朗々と歌う姿に、「存在自体がオペラ」とも言われました。またその恰幅の良い体型を生かして権力者など、ただの二枚目を超えた「腹に一物」的な役を得意としていました。レパートリーはイタリアオペラが中心でしたが、ドイツオペラの「ばらの騎士」の歌手も演じました。完璧主義のパバロッティは公演のキャンセルも多く、シカゴ・リリック・オペラでは8年間で41回の公演のうち26回キャンセルして支配人を怒らせ、永久出入り禁止となりました。また地元モデナを本拠地とするフェラーリにF40を予約した時には、「あの大きな身体では乗り込めないのでは?」と言われるお茶目なところもあります。存在自体がオペラといわれるほどの華やかな世界を歩んだパヴァロッティは持ち前の明るさも相まってスターの「陽」の部分が色濃く出ていると言えます。
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鯨井誠一さんの感想
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山崎洋平さんの感想
二人とも共通していることは聴いていて心が震えるような歌でした。悔しいくらいに気持ちが良かったです。
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校長の感想
私が知っているマリア・カラスといえば、ただただスキャンダラスな超絶美人のオペラ歌手でしたが、こんなすごい歌手だったんですね。パヴァロッティも聴いたことはなかったのですが、疲れていても聴いているだけで元気が出るような不思議な歌でした。オペラが少し近づいたような気がします。
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T.eng氏の感想
次回は小澤征爾と朝比奈隆を取り上げます。