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891 多田図尋常小学校の人々「話しやすい雰囲気でした」


1限目 社会
「普通のこととして
 特別養子縁組(*)が
     広がってほしい」
 *実の子と同じ親子関係を結ぶ制度
〜特別養子縁組で
         家族になってみて〜
 長瀬仁さん
   (保育士/K-Popにハマっています)
 
 
 多田図尋常小学校の常連、坂梨勝一さん(無農薬野菜生産者)が主催されている「田んぼの会」で長瀬仁さんと初めてお会いしました。長瀬さんは特別養子縁組という、戸籍上も実の子と同じ扱いとなる制度で二人のお子さんを迎えられたそうです。坂梨さんからのご希望もあり、長瀬さんに特別養子縁組という制度についてのお話を伺いました。
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特別養子縁組とは
 よその子どもを迎える制度には、里親、養子縁組と特別養子縁組の3つがあります。里親は戸籍には全く触れられませんが、養子縁組は「養子」と記載されます。特別養子縁組は「長男」とか「長女」などと記載され実子と全く同じになります。(備考欄に法律何条とかは記載されますが)我が家はこの特別養子縁組で迎えた中2(14歳)の長女と小6(12歳)の二人の子どもがいます。
 2001年に私と妻は入籍し、その後2−3年たってから不妊治療を始めました。わずかに妊娠の兆候が見られたのですが、結局妊娠には至らず、治療は妻もしんどそうだったので7年で中止しました。しばらくしてから
妻が特別養子縁組という制度を見つけてきました。
私たちは子どもが欲しかったのですが、妊娠出産が大事なのか、それとも子どもを育てともに過ごすことを望んでいるのかを二人で徹底的に話し合いました。またお互いの両親にも相談したのです。
無条件に子どもを受け入れる
 特別養子縁組で子どもを迎えるにはいくつかのルートがあります。児童相談所の他に民間の斡旋団体もやっています。でも児相は多くの仕事の一部として行っている上、手続きが複雑なので時間がかかります。民間団体はいくつかありましたが「環の会」という団体の説明会や研修に行き、面談も受けてみて、ここに決めました。2010年の2月に説明を受けて5月には生後10カ月の長女を迎えたので、割と早い方だと思います。子どもとは2日一緒に過ごしてから家での生活が始まりました。
 「環の会」の縁組希望者は、子どもを迎えるに当たって「男の子がいい」などと条件をつけることはできません。普通の出産でお子さんが生まれる時と同じで、無条件に受け入れるわけです。親が子を選ぶことはふさわしくない。子どもファーストなんです。長女を迎えて2年後に二人目の生後15日の長男を迎えました。その赤ちゃんは生まれてから乳児院で育てられていましたが、そこで産みの父親と、そのご両親から託されました。
「環の会」との出会い
 実を言うと最初、私は環の会にいい印象を持っていませんでした。会のホームページをみると子どもの斡旋と書いてあり、人の命をお金をとって斡旋するなんてどこかいかがわしい、人身売買と同じだと感じたのです。最初の説明会で、その疑問をぶつけてみました。すると丁寧に説明してくれました。
「子どもを斡旋する活動、研修や面談、アフターケアなどには全てお金がかかります。児相などの公的機関ならば行政の予算がおりますが、民間団体には公的な資金援助はありません。結局、サービスを利用するご両親が負担するしかないのです」
さらにこんな話もしてくれました。
「この会の主目的は赤ちゃんの斡旋ではなく、予期しない妊娠で困っている人の相談に乗ることです。相談の結果、お母さんが自分で育てることになればサポートするし、どうしても育児は無理ならば斡旋をします。斡旋は育ての親のためでなく、あくまでもその親子のためなのです。また子どもの名前は原則、産んだお母さんにつけてもらいます。名前はお母さんがその子に残せる大切なものですから」
 環の会では、子どもをきょうだいで迎えることを薦めています。同じ境遇の子どもが家庭の中に一人だけより二人いる方がいい。家族の中で自分だけ特別な存在にならないし、そのことで悩んだときに相談しやすいという配慮なんです。他の団体でも複数の子を迎えることはできますが、1人目を迎える前からきょうだいのことを想定しているのは環の会の特長の一つです。
「真実告知」 テリング(Telling)
 環の会ではテリング(Tell + ing)を大切にしています。一般的には真実告知と言われているもので、子どもの出自を知る権利を守ることにもつながります。自分は特別養子縁組でこの家に迎えられたと言うことが、その子にとっての生きていく上でのベースとなるわけです。同時に私たち親にとっても、それは特別なことでなく、当たり前のことにしていきたいのです。生後10ヶ月の長女にも生後15日の長男に対しても、言葉がわからない時から説明していました。具体的には、産みの親と撮った写真を、目に留まりやすいようにリビングに置きました。子どもがその写真を見たときに『これは〇〇ママだよ』『この写真はあなたを迎えた日に撮ったんだよ』などと、私たち夫婦が話しやすいように。おそらく私たちの練習も兼ねていたのですね。
 下の長男が3−4歳のとき、友達の家に赤ちゃんが生まれて、妻に聞いたそうです。「あの赤ちゃんはいつ、よその家に行くの?」と。赤ちゃんは誰でも特別養子縁組で他の家に迎えられると思ったのですね。「そうね。その家によって違うのよ」
 真実告知への取り組み方は養子縁組をあっせんする団体によってまちまちです。私たちには環の会のテリングという取り組みがあったので、その点では悩まずに済みました。また環の会では、生みの親をとても大事にしており関係を切ったりしません。我が家の子どもたちにも環の会を通して、産んだお母さんから手紙や誕生日プレゼントをもらっています。我が家はまだですが、双方の意向が合えば会うこともできます。
もっと知ってもらいたい
 私たちが最初の長女を迎えたとき、二人家族に急に赤ん坊が増えると不思議に思うといけないので、ご近所や職場にも伝えておきました。周囲に特別養子縁組のことを知ってもらいたいし、そのことで子どもたち本人も悩まずに済むと思ったんですね。つまり社会にテリングをしたわけです。それを聞いた方たちは、意外に普通で、ニコニコして「おめでとう」と言ってくれました。
  2人目の長男を迎えたときは、その後引越しをしたこともあり、積極的にテリングをすることはしませんでした。そんなとき環の会に、特別養子縁組のテレビ取材(日テレとテレビ朝日)があり、私たち家族も紹介されました。たまたまその番組を上の子が通う幼稚園の先生がご覧になって妻に見たことを話してくれました。おそらくもっと多くの方も見たと思うのですが、他には話してくれた方はいなかったです。「そんな微妙なことに触れてはいけない」と思ったのでしょうか。これからもっと特別養子縁組のことを広く伝えて、社会の垣根を低くしたいですね。

 

質問:
坂梨さん:引き取って育てている時に、産んだお母さんの気持ちが変わって「やはり自分で育てたい」とはならないのですか。
長瀬さん特別養子縁組が成立するまでには、家庭裁判所へ申し立ててから最低でも6ヶ月はかかります。その際、産みの親へは家裁から「本当に縁組をしてもいいのですか」と確認があります。成立するまでの間に、産みの親が自分で育てると決断した場合、縁組は不成立になりますが、一度成立した後は、産みの親の元に戻ることはできません。
坂梨勝一さんの感想
 
勢いで長瀬さんを講師に推してしまったのですが、元同僚である長瀬さんから、あんなに素晴らしい話を聞くことができて、幸せです。
特に『環の会』の子ども目線の考え方に、心が入れ替わりました。自分がマジョリティ的な考え方をしていたことが恥ずかしいです。長瀬さんのお子さんたちが身につけてきた世界観に敬服です。
T.eng氏の感想
 親子の絆は『血よりも濃い水がある』と評されることもあり、結局は向き合い方なのだと感じます。

 

佐越直人さんの感想
 先日は多田図尋常小学校に参加させていただきありがとうございました。直前まで、ばたついていましたが参加できてよかったです。やはり人が集まって話すということは面白いと思いました。いろんな価値観、経験をした人が語り合うことで、自分の引き出しに「そんな話してた人いたなぁ」と振り返ることもあるのかもしれません。今回の特別養子縁組の話も、あまり周りで聞かないことなので、改めてこのご縁を大切にしたいと思いました。音楽も好きですので、また機会があれば参加させてください。

 

佐藤慎一郎さんの感想
 私は「聖母愛児園」という児童養護施設で働いてきましたが、この度は仕事柄、そして人の生き方としてとても関心の向く内容でしたので参加いたしました。
施設の子どもが里親制度などで引き取られることもあります。今回、長瀬さんから真実告知(テリング)のお話を伺い、こういうやり方もあるんだととても参考になりました。週末仕事が入る事が多々ございますが、また、機会を見て参加したいと思っております。
宜しくお願い致します。
東田信子さんの感想
 地域子育て支援拠点のスタッフです。そこで里親としてお子さん連れの人に出会うことがあります。お子さんを迎え入れる人の研修に、地域の居場所を知ってもらうために参加することもあります。長瀬さんのリアルな話をうかがって、当たり前の親子として、接することが大事なんだとわかりました。地域の人や、スタッフにも聞いてほしいと思いました。また相談させてください。

 

原田靖子さんの感想
 成年後見人をやっています。幼児の時の虐待のトラウマで苦しんでおられる方もいます。
長瀬さんの「子どもを中心に考える」という考え方が、心に染み込んできました。ありがとうございました。

 

長瀬仁さんの感想
 今日は朝早くから、お話しする場を作っていただき、ありがとうございました。緊張することなく話すことができました。坂梨さんや佐越くんという顔見知りがいたこともありますが、みなさんから関心を持って聞いてもらえていることが画面を通してでも伝わってきたことが話しやすい雰囲気につながっているのかと感じました。子どもたちの声も聞ければ良かったのですが、今回は子どもたちに何もお願いしていなかったので顔見せだけで・・。いつか本人たちの口から伝えることができたらいいなとも思います。また特別養子縁組の話ももっと広がって欲しいと思います。今度は、時間に余裕のあるときに多田図尋常小学校の他の方の話を聞きに行きたいと思います。また、よろしくお願いします。