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896 多田図尋常小学校の人々「これまでの経験と考えを伝えさせていただきました」


1限目
    「僕らの野望」
 〜「治す」から「自分と対話」する
                          理学療法士を目指して〜
  鯨井誠一さん・山崎洋平さん (理学療法士)
今回のゲストの鯨井誠一さんと山崎洋平さんは、あるイベントでT.eng氏と知り合ったことをきっかけに多田図尋常小学校に参加されました。お二人は理学療法士の大学の同級生で、卒業後、病院に勤めていましたが、次のステージに向けて退職。現在、オーストラリアでさらに理学療法を勉強することを計画しているとのこと。安定した職場より将来を見据えた行動を選択したお二人のお話を伺いました。
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おはようございます。鯨井誠一(右)です。私はスノーボード、サーフィン、バイクが趣味で、大学で理学療法を学んでクリニックに5年ほど勤めた後、退職。現在、次の活動に向けて準備中です。そもそも私が理学療法士になろうと思ったのは高校野球でテーピングやマッサージが得意だったので、そこから身体に興味を持ったのがきっかけです。よろしくお願いします。
私は山崎洋平(左)です。鯨井と一緒に理学療法士の大学で学びました。趣味は武術や筋トレです。病院に勤めた後、退職して鯨井とともに次のステージに向けて活動しています。私は小学校の時に父親が通っている整体をみて憧れ、また親戚に理学療法士がいたこともあり、進む大学を決めました。
理学療法士とは
簡単に言うと、体に悩みを抱えている人に対して治療体操や電気刺激、マッサージ、温熱などの「理学療法」を使って現状より良い状態にするサポート役です。「医師の指示の下」で保険診療として行う、患者さんの体の不具合をよくする専門家とも言えます。
私が理学療法士として大切にしていることは、まず①患者さんに寄り添いながら丁寧にお話を聞いた上で②症状に合った治療を行い③患者さんの自己実現をサポートすることです。そして④私との関わりが患者さんが「良かった」と感じ、さらに⑤幸福を感じていただけたらと思っています。
②理学療法アプローチ
患者さんが来られたら、まず①体の状態を様々な方法で調べてから②その結果をまとめ、それに基づいて③「症状の原因はこうじゃないか」と仮説を立てます。④仮説に沿った治療を行い、その効果を調べて⑤その結果に対して次の手立てを考えるわけです。もしうまくいっていれば、患者さんに必要な動作(セルフケア)についてお話しますが、うまくいかなければ①に戻って⑤まで行くことを繰り返します。うまく行かずに繰り返す「負のサイクル」に入ってしまうと、セルフケアもできず、生活スタイルの変化も生まれないのです。反対に、うまく行く「正のサイクル」では、患者さんはセルフケアを通して、生活スタイルも変化して、自分のやりたいことができる、自己実現に近づくわけです。この二つの違いを考えると、いずれも治療効果を実感して、生活指導を行うところまでは一緒ですが、痛いことで周りに配慮されることを望んでいたり、そもそも自分の体に関心がなく、体の感覚が鈍ってしまっている。反対に自分の体を機械のように過度に使いすぎてしまうなど、様々原因が考えられます。残念ながら現在の理学療法では、これら全てにアプローチすることは困難ですし、ここが健康ならば負のサイクルにならないはずです。では健康とはなんでしょう。
③健康とは
広辞苑には「身体に悪いところがなく心身が健やかなこと」と書いてあります。WHOの定義によると「肉体的にも、精神的にも、社会的にも、すべてが満たされた状態」と言います。最近はこれに「霊的と動的」を加えた新しい定義を検討され始めています。これらを受けて私たちはこんなふうに考えました。①健康とは「全てを受け入れて、必要なことに前向きに取り組める状態」で、具体的には未開拓な地域に住む人々や、武術家、厳しい修行をする僧侶というイメージです。②そこに近づくための方法として、未開拓な地域に文化人類学のフィールド調査や、自分なりのサバイバル生活を極める。未開拓な人々は誰もが自信を持って生きているし、何より自分に誇りを持って生活しています。それは不自由、不便な生活を送ることにこそ、大切な意味があるのではないでしょうか。私たちもサバイバル的な生活を通して、その人たちに少しでも近づけると思うのです。
武術で言えば、システマや拳法を通して、体の使い方、体に対する考え方、体の感覚を磨くことを学ぶことができます。私が関心を持ったのはシステマという武術です。その体の動かし方や意識の持ち方は、人が生きるために大切なことと繋がっていると実感しました。さらに自分を知るための方法として、狭い空間に長時間、一人で閉じこもって自分を見つづける内観療法などを注目しています。そんなことを、二人であれこれ考えていたら「自由工房」に出会いました。そこで東洋医学、さらにはホリスティック医学について学ぶうちに、自分たちが考えている健康は、まさしくホリスティック医学そのものだと気がついたのです。
④ホリスティック医学
ホリスティック医学について簡単にお話します。医学には大きく分けて西洋医学と東洋医学、それとホリスティック医学があります。私たちにお馴染みの西洋医学は①科学的根拠に基づいた技術で症状を診断して治療するものです。つまり人の状態を医療機器を使って客観的に評価・分析をして、それを細かく分類(カテゴライズ)します。誰でも判断できそうですが、反面、体の不調に対して機械的、画一化された治療になりやすい傾向があります。東洋医学は身体の不調を内側から自然治癒力で根本的に治すことが目的と考えます。
体を精や気、津液の流れととらえ陰陽論なども、体を循環する存在と捉えていきます。治療にあたっては科学的な根拠よりも、古くからの治療経験の積み重ねが柱となり、自己免疫や恒常性の正常化、活性化で身体環境を改善していきます。そしてホリスティック医学は、全体を部分や要素に分解することはできないという「Holism」の考えから生まれたもので、全体、関連、繋がり、バランスを全て包含した言葉として解釈されています。つまり気、心、霊性を含めた「body-mind-spirit」の視点、社会環境、自然環境まで含めた全体的な視点から健康を考えるのです。
⑤私たちが考えている
     ホリスティック医学
私たちはこのbody-mind-spiritの3つについて考えてみました。まずbodyでは理学療法でも使っている姿勢評価を考えます。体のポイントのどれかが正中線から外れると、姿勢が崩れてしまいますが、それもいくつかのタイプに分かれています。またエコーを使って、膝などを曲げた時の筋や筋肉の様子をチェックすることもできます。次のmindでは例えば内観療法を通して意識、無意識の両面から自分自身にアプローチすることを考えています。心の仕組みは、ちょっと複雑なので、また機会があればお話したいと思います。そして最後にspiritです。これはまだ考え始めたばかりなので、私たちが大好きな十牛図をご紹介します。これは中国の禅僧・廓庵(かくあん)が作ったいわば悟りに向けた入門書で、そのプロセスを牛を探すプロセスに重ねて説明しています。
⑥今後の企み(将来構想)
私、鯨井は現在27歳で、山崎が28歳ですが、これまでお話したことを進めるための将来構想(今後の企み)についてお話しします。
残念ながら日本の理学療法は国際的に見ても2段階くらい遅れています。オーストラリアやドイツといった理学療法の先進国では理学療法士は医師指示の下でなく、独立して診察診断することが認められています。そのための診断技術も進んでいて、チェックリストだけで、迷わずに正確に診断ができる、そんなシステムが整備されているのです。日本で活躍している理学療法士の多くは、理学療法の先進国に留学してレベルを上げています。そこで私たちは、まず29~31歳で理学療法の柱とも言える徒手療法の先進国オーストラリアで勉強をしてきます。うまくいけば国際資格の取得も考えて準備をしています。同時に国内では地域コミュニティに参加して高齢者の方々とも関係を作っておきたい。そこから私たちのスキルを提供することを考えています。
そして31~32歳でインドで3ヶ月くらい本場のヨガを体験したいと思っています。そこで宇宙とつながるチャクラについても知りたいです。地域では、これまで私たちが学んできた知識やスキルを広く提供するためのワークショップや、高齢者のフレイル事業、徒手療法をさらに深める勉強会などを開催する予定です。
32~33歳では、アマゾンでの野外生活についての調査研究を始めます。地域では、自然の中で生活しながら自然と触れ合うイベントができるといいなと思っています。
さらに33~34歳では2〜3ヶ月くらい実際にアマゾンに行って自然の中で生活する予定です。地域では、湯河原の自然の中で、私たちが会得してきたそれぞれの民族の生活スキルを共有するワークショップを開きます。また人間関係でも、家族や友達などと、安心できる関係性を構築することも探っていきます。そして最終的には目指すのは自給自足生活です。
これらの構想のベースは「ホリスティックな考え方をもとに、人類にとって必要な状態や関係性、そしてシステム循環を目指していく」そんなつもりです。ご静聴ありがとうございました。
質問:
校長(中城):長い間、理学療法をやってキツかったことがあればお聞かせください。
山崎さん:例えば腰痛でこられた方に、色々な治療をしてもあまり効果がないときに、これはおそらく気持ちの問題じゃないかと思ったりするんですね。でもごく限られた時間の処置だと、そこまで患者さんに寄り添って聞いてあげることができないんです。そういうのが辛かったです。また理学療法は施術した後に患者さんが自分で動くことで効果が上がるんですが、患者さんによっては安全のために動きを制限することもあります。そんな手足が動かせない状態での理学療法は効果が低く無意味だけれどもやらせられることがあります。そんな時もきついですね。
鯨井さん: 私もクリニックで働いていた時 、限られた時間で多くの患者さんを見るんですが、1日の終わりに「君は今日、◯◯単位だったね」などと業務上、確認されたりするんです。そんな時に、ふと自分は患者さんを幸せにするために勉強やスキルアップし施術しているのか、病院の収入のためにやっているのかなんてと思うことがありましたね。
T.eng氏の感想
どうしても不利な体勢を避けられない環境での治療法に期待です。
鯨井さんの感想
先日は貴重なお時間をお作りいただきありがとうございました。今回の授業では、「僕らの野望」というテーマでこれまでの経験と考えをお伝えさせていただきました。今まで皆さんにお伝えする場がなく、プレゼンをする機会がなかったのでとても良い経験になりました。発表用の資料作成をしているときに、まだまとまっていないところや私たちの短所や長所のようなものが少しずつ整理でき、とても良い時間となりました。大枠の構想は出来ていますが、まだフワフワとしていて行動に移せていないことも多く、反省する良い機会になりました。また、進捗や皆様が気になることをお伝えできればと思います。今後ともよろしくお願いいたします。