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897 多田図尋常小学校の人々「次回はシュヴァルツコップとポップを取り上げます」


●2限目音楽
 「Coffee Break Music In Tadaz」
 本日のバリスタの気まぐれブレンド
 「ギター界の巨匠」
    〜セゴビアとイエペス  

 T.eng氏(音響エンジニア

  /趣味はオーディオ、パソコン製作、鉄道 etc.)

 クラシックにおけるギターは古くからありましたが、必ずしも表舞台に出てきませんでした。それはリュート時代であれば調律の難しさに加え、大型化していく楽器編成と楽器の音量差が顕著になったことが挙げられます。その潮流が変わったのは19世紀後半。アルカスやその弟子タレガがギター製作者アントニオ・デ・トーレスの楽器を用いてその地位を復興しました。その流れの中、20世紀に入り巨匠の活躍をもって不動の完全復活と相成りました。その中核こそアンドレス・セゴビアとナルシソ・イエペス。彼らなくしてロドリーゴやヴィラ=ロボスを筆頭とした現代クラシック・ギター作品はなかったでしょう。現代クラシック界のみならず数多くのギタリストにも影響を及ぼした二人の軌跡をお楽しみください。

 現代クラシックギターの開祖
   アンドレス・セゴビア
 アンドレス・セゴビアは1893年スペインのリナーレスで生まれ、1895年に伯父夫婦に預けられます。最初はヴァイオリンを習っていたのですが、先生とはそりが合わず中止。1903年に伯父夫婦とグラナダに引っ越してギターを習い始めます。1909年に16歳でプライベートコンサートを開き、数年後マドリッドでプロとしてデビューし注目されます。しかし家族はギタリストのようなヤクザな商売には大反対で、弁護士のような固い仕事になることを望んでいたのです。それでもセゴビアは有名なギタリストで作曲家であるフランシスコ・タレガの弟子が集まるサロンでタレガ奏法を見て、その並外れた演奏技術でさらに進化させていきましたが、タレガの弟子たちからは異端児扱いされていました。1916年にバルセロナで初リサイタルを開き、1920年には南米ツアーを行い、次第に世界的に知られるようになります。1924年にミュンヘンでコンサート、パリでも初リサイタルを開催します。同年、ギターの音量不足を痛感したセゴビアはドイツの弦楽器製作者のヘルマン・ハウザーを訪問し、現在のギターにつながる新しいギターの製作を依頼します。1935年には難易度の高いバッハのシャコンヌをパリで初めて公に演奏し成功させます。1954年にスペインの作曲家ホアキン・ロドリーゴと出会い、生涯の友となります。1981年にスペイン国王からサロブレー二ャ侯爵の爵位を授けられ、1987年に94歳で死去しました。
 セゴビアは、それまでのフラメンコ的にかき鳴らす奏法ではなく、爪や指先を使って豊かにならす奏法を作り上げましたが、それはチェロのカザルスに匹敵する革新的なものだったのです。さらに音量を高めるためにヘルマン・ハウザーをはじめ、多くのギター職人とともに共同作業で、ギターの改良を続けました。またジョン・ウィリアムズなど有名な門下生も多く、その影響力はジャンルこそ違いますがチェット・アトキンスやジミ・ヘンドリックスにも匹敵します。
 

 

  現代クラシックギターの

    可能性を広げた
   ナルシソ・イエペス
 ナルシソ・イエペスは1927年にスペインのロルカで生まれました。4歳でギターに触れて、その後、バレンシア音楽院に入学して作曲家ビセンテ・アセンシオに出会います。さらにマドリード音楽院で、いわゆる英才教育を受け、1947年にスペイン劇場で、ロドリーゴのアランフエス協奏曲を演奏しました。パリやジュネーブでも演奏会で成功し有名になっていきます。1950年から修行のためヴァイオリンのジョルジュ・エネスクとピアノのヴァルター・ギーゼキングに習い、音色や、直感力、誠実さなど、演奏に関するもろもろを学びました。1952年に映画監督ルネ・クレマンと出会い、映画「禁じられた遊び」の音楽を頼まれます。もともとセゴビアに依頼するつもりでしたが金額面で折り合わず、24歳だったイエペスに回ってきたのです。メインテーマ曲の「愛のロマンス」は大当たりし、イエペスは世界中に知られる存在になりました。さらに高い音質を求めてギター職人と10弦ギターを開発し、それを持って世界各地で演奏してまわりました。人気も圧倒的となり、レパートリーも広く、録音したレコードも50枚以上あります。1997年に69歳で亡くなりました。
 クラシックギターの開祖がセゴビアならば可能性を広げたのがイエペスです。イエペスは20世紀のギター音楽を深く探究して、その可能性を広げていきました。彼の音楽のレパートリーは広いですが、ベースはスペイン音楽にあります。現代ギター作品では、ギターだけが持つ音楽性を極め、作品のあるべき姿を徹底的に研究し尽くしています。10弦ギターを持って世界各地で演奏したのもそのうちの一つと言えます。それ以外にも、演奏時の手や指の筋肉の動きを科学的にアプローチするなど、現代では当たり前となっていることをさきがけて取り入れていました。
てん
鯨井さんの感想
 T.engさんのギターについてのお話は非常に興味深く、もう一度復習したいと思っております。クラシックとギターの組み合わせは聞いたことがなかったのでとても有意義な時間となりました。大変良い時間を過ごすことができ大満足でした!ありがとうございました!
校長(中城)の感想
 私が学生の頃、セゴビアとイエペスの両巨頭の名前は日本中知れ渡っていました。特にイエペスの「愛のロマンス」は、ギターを持っている人は誰でも挑戦していたように思います。でも二人の背景はあまり語られることもなく、私も初めて知りました。
T.eng氏の感想
次回はシュヴァルツコップとポップを取り上げます。