· 

913 多田図尋常小学校の人々 「『保育=いる』だと思っています」


1限目 社会
図鑑好きの少年が男性保育士に」
   〜生き生きと遊ぶ子どもと関わりたい〜
     長瀬仁さん(保育士/K-Popにハマっています
 
 1月に特別養子縁組について素敵なお話をしていただいた長瀬仁さんのお仕事は保育士です。まだ男性保育士が少なかった時代に長瀬さんが保育士になった経緯と、実際に保育士になってみて感じたことや体験したことなどを伺いました。
        ・    ・     ・
化学専攻から保育士を目指す!!
 私は最初、薬剤師になるつもりで大学に入ったのですが、学部の振り分けで必要な成績に達しなかったので薬剤師は断念して化学に進みました。ところが化学は自分にあってないことがすぐにわかり、自分が本当にやりたいことを考え始めました。その時、祖父のお葬式があり、親戚の子どもたちの相手をすることに抵抗がなく面白かったのです。振り返ると自分の子ども時代は子どもらしくなかった。早くに大人っぽくなっていて小学校では本ばかり読んでいて、特に図鑑が大好きでした。中学に進むとそれが漫画に変わっていきました。そんな自分だったので、できたら子ども時代をやり直したい気持ちが湧いてきて、保育の仕事がいいかなと思ったのです。あくまで自分のためですね。
 大学3年になって化学の研究室に入ると9割は大学院に進むのですが、私はその気がなかったので、研究と並行して独学で保育の勉強を始めました。保育士の国家試験は3年以内に9科目を取ればいいのですが、在学中にその半分が取れました。残りは卒業後にバイトしながら独学で取ろうと思ったのですが、就職先の紹介など専門学校が圧倒的に有利なのです。東京に公立で学費も格安な専門学校を見つけたので、昼間は福祉施設でバイトして夜間は専門学校に通うことにしました。当時はまだ「保育士」という言葉がなく友人に「君は保父になるの?」って聞かれました。1年間、専門学校に通って保育士の国家試験も通りました。
男ということで困ったことはなかった!
 卒業後は埼玉県与野市(現さいたま市)の公立保育所に就職することができました。その頃、与野市では男性保育士の採用に積極的で隔年で採用していたので今年は狙い目だと受験したのです。その年は与野市全体で8人採用して男が二人採用されましたので、男性は4分の1ですね。保育士の学科試験自体はそれほど難しくはないのですが、実技は苦手で、私はピアノが弾けませんでした。幸い私の学校は、ピアノの実技試験はかなりゆるく、ちゃんと弾けなくても大丈夫でした。現場でもほとんど弾くこともなかったので、自慢ではありませんが、今でも弾けません。
 最初に入った保育所は幸運にも男性保育士の先輩がいて、僕が働きやすいように配慮をしてくれたこともあり、男だからと困ったことはほとんどありませんでした。強いて言えばコミュニケーションで「これは男の人には伝えなくてもいいんじゃない」と細かな情報がこなかったりしたことくらいですね。もっともこれは私の人柄が原因かもしれませんが。
保育園の1日はこんな感じです。
 私の持ったクラスは2歳児で15人を3人の保育士で担当します。一人がベテランで僕を含めて2人が新人でした。保育園は7時30分から夜の7時30分まで開いており、早番と遅番がいます。早番の時は7時くらいに登園して窓を開けて、塩素を含んだ水が出るまで水道を流します。昨夜の遅番が掃除をしてくれるので掃除はしません。
 7時30分に開園。9時に全員が揃うまで、晴れていれば子どもたちと園庭で、雨なら園舎で遊びます。その間、登園に付き添ってくる親御さんに子どもの状況を聞いたり、連絡帳を受け取ったりします。

 

この間は、結構忙しいのでパートの保育士と一緒にやります。外遊びは体を使った遊びですが、園舎では、絵本を読んだり、おもちゃで遊びます。おもちゃは予算の関係もあり手作りが多く、牛乳パックと新聞紙を使ったり、材料を百円ショップで揃えることも多いです。

 9時に全員が揃ったら11時まで、晴れていれば庭で遊んだり戸外に散歩に行き、雨なら園舎での遊びです。子どもを見ながら、必要に応じて、遊びを提案していきます。提案はあらかじめ考えるのではなく、子どもの様子を見ていると浮かんできます。私はどちらかというと俯瞰して全体を見ることが得意なんです。これは人によるのかもしれませんが。保育園に入ったばかりの時は余裕はなかったのですが、次第に無意識に全体を見るようになりました。
 11時になると昼食です。保育園によっては保育士が一緒に食べるところもあるようですが、私たちのところは、子どもが食べるのをサポートしてから別室で食べます。偏食ですか、以前はなんとか残さないように色々試みてはいたのですが、今は本人の意思を尊重しています。昼食が終わると1時から3時までお昼寝です。子供達が寝ている間は、保育士は結構忙しく、自分の食事、日報の記入、連絡帳の返信などで、あっという間に過ぎてしまいます。
 5時になるとお迎えが来るので、それぞれに対応します。お迎え時間は保護者の仕事の都合や勤め先・住居の場所によってかなり違ってきます。
私にとって保育とは
 今は保育主任という立場となり、現場から少し距離がありますが、保育に戸惑ってり困っている若い保育士の方達がいれば、私のこれまでの経験を伝えていけたらと思います。私が保育で大事にしていることですか。私は自分にとっての「保育」を短い言葉(動詞)で表現するのが好きです。就職した当初は「見守る」でした。次に「待つ」、そして「共感する」、次は「代弁する」、そして今は「聴く」です。ありがとうございました。
T.eng氏の感想
 予算がない中で、どう遊ぶかがポイント。そこに予想外のことが起きます。そこから魔改造的な何かが生まれるかもしれません。大体、男子が3人も集まれば何かを作り始めます。子供たちは大人が考える以上にフリーダムなモノの使い方をします。そうして秘密基地はどこかしらに建造されます…。
校長の感想
 長瀬さんから男の保育士ならではのお話を伺うつもりでしたが、男女の違いより保育士一人一人のものの見方や考え方の違いの方が大きかったようでした。ひょっとすると男ならではとか、女ならではという視点は幻想なのかも・・。仕事の本質には男女の区別は少ないのでしょう。
長瀬さんの感想
 先日は話す場を設けていただき、ありがとうございました。短い時間で話すには盛りだくさんの内容でしたね。簡潔にまとめていただいて、ありがとうございます。中城さんのおっしゃる通り、僕自身は保育という仕事に男女の違いを感じたことはありません。僕の話から、そう感じていただけたのだとしたら、うまく話せたということなのかもしれません。
 あと、最後の「保育を短い言葉で表現する」遊びは、今だったら「いる」になるかもしれません。
単純な言葉ですが、ただ「いる」ことって案外難しいのではないかと、最近強く感じたので・・。