「映画大好き!」
〜最近、観た映画のお話をします〜
雨宮真由美さん
「暮らしの思想 佐藤真 Retrospective」HPより引用
「暮らしの思想 佐藤真 Retrospective」HPより引用
『花子』の主人公は、
姿の見えない姉「桃子」
これは障害を抱えながら絵を描く女性アーティスト花子さんと、それを支える家族を描いた作品です。絵を描いたりデイサービスに出掛けたり食事をとったりする様子を撮影していますが、花子さんは結構わがままで気に入らないと大暴れ。それでもお母さんもお父さんも決して怒らず暖かく受け止めていく。花子さんは1時間くらいで落ち着きますが、私なら絶対にキレたりするだろうな。でもご両親は絶対に怒ったりしません。
正直に言うと私が一番気になったのは、花子さんやご両親ではなく、お姉さんの「桃子さん」でした。桃子さんは部屋から出て来ないので気配を感じるだけです。一部コメントが出てきますが、姿は一度も見せないのです。花子さんが大暴れしている時、2階の部屋で桃子さんは何を感じて何を考えているのだろうか。そんなことがずっと気になっていました。ご両親は花子さんにかかりきりで、もしかすると桃子さんはとても寂しい思いをしたと思うんです。
実は私には7歳年下の妹がいます。一時重い鬱となり病院通いもしています。ひどい時には家族に暴言を吐いたりして両親は持て余しつつ必死で妹を支えていました。幸い妹は現在は結婚もして落ち着いて暮らしていますが、当時の私は、妹の様子にヒヤヒヤしながら、この先どうなっちゃうんだろうと絶えず不安を抱えていました。両親亡き後はどう付き合っていけばいいのか?そんなこともよく考えました。そんな私にとってこの映画の主人公は「花子さん」ではなく、姿を見せない「桃子さん」だったのでした。
「暮らしの思想 佐藤真 Retrospective」HPより引用
亡きパレスチナの知識人を描いた
「エドワード・サイード
OUT OF PLACE」
パレスチナ生まれでエジプトで育ち、アメリカで比較文学を研究し、パレスチナ問題について発信し続け、オスロ合意に反対してPLOのアラファトと袂を分かったエドワードサイードの足跡をたどったドキュメンタリー映画です。レバノンにあるお墓と別荘、幼少期を過ごしたエジプトの家や実業家のサイードの父親を追い、奥さんや家族、知人たちのインタビューを重ねていきます。今は亡きサイード本人は出てきませんが、サイードの人柄やその姿が、生きているかのようにリアルに浮かび上がってきます。パレスチナ問題で揺れ動く今の私たちへの温かいメッセージのような素敵な映画でした。
*以上がBUNKAMURAで観た佐藤真監督の4作品の簡単な感想です。横浜のシネマリンでも「佐藤真 Retrospective」が始まりますので、ぜひお越しください。私ももう一度見たくなりました。
「暮らしの思想 佐藤真 Retrospective」HPより引用
見えない恐ろしさを描く音響効果
「関心領域」
次は「関心領域」という映画。これはアウシュビッツ強制収容所隣に建てられた収容所所長ヘスと、その家族の日常生活を描いた映画です。ヘスの転属とともに引っ越してきた妻。庭に美しい花壇を作り、ピクニックやプールを楽しみ、豊かで幸せな生活を送るのです。収容所からユダヤ人女性が身につけていた毛皮のコートや宝石を当然のように受け取り目を輝かせます。隣の収容所からはユダヤ人を焼却する煙や匂いが流れ、銃殺の音が聞こえてきます。でも彼女たちは気にしていない。していないように見える。悲惨な状況の隣にいながら全く無関心でいられる、この様子はとても恐ろしくゾッとさせられます。これは私自身かもしれない、と思わせる怖さです。この映画のすごいのは卓越した音響設計です。音響から見えない恐ろしさがリアルに伝わってきます。音だけで見えない恐ろしさを浮かび上がらせるのです。この映画は一度は見ることをお勧め。2度は見なくてもいいかもしれませんが。
「関心領域」HPより引用
これから見る予定の映画たち
これから楽しみにしている映画の1つめは「ホールド・オーバーズ 置いてけぼりのホリディ」です。アメリカではクリスマスは家族揃って楽しむもので、学校の寄宿生たちも一斉に故郷に帰ります。そんな中、帰るあてがなく寄宿舎にとどまっている生徒と、厳しい老教師、寮母の物語です。これだけ揃えば何か起きそうです。もう一つは伊勢真一監督の「大好き!」。伊勢監督は、お姉さん西村信子さんのてんかんを持つ長女、奈緒ちゃんが8歳の時から映画を撮り始めました。医師から長生きはできないと告げられた奈緒ちゃんも元気な50歳。その集大成として作った映画です。これから公開されるのですが、伊勢さんの映画が大好きな私にとって、とても楽しみです。
(c)いせフィルム
T.engさんからの感想とPCについての親切なアドバイスもありがとうございます!すごく嬉しいです!T.engさんの映画音楽についての講義、ぜひ聴講したいです❣️それでは今後ともよろしくお願いいたします❣️