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927 多田図尋常小学校の人々「メンバーさんたちに、教えられ支えられてきました」


●1限目 社会
「のんびりうっかり25年              −その2」
    〜精神障害者地域作業所で学んだこと〜
       井上麻子さん 
 (まいんどくらぶ事務局長
 
リンデンーカフェ杜 施設長)
 お菓子作りが大好きな井上麻子さんが短大の求職コーナーで、美味しいクッキーを製作販売していた地域作業所の「セサミ香房」を見つけ即応募したそうです。入所して日々予想外の出来事に直面して右往左往していた井上さんも、職場の先輩や利用者さんから25年間みっちり鍛えられ、今や責任者として飛び回っておられます。井上さんが大切にしていることは「じぶんをフラットにして人の話を聞く」。うーん、奥が深い。今回はそのあたりについてたっぷりとお伺いたいと思います。 

 

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「ささやかに、シンプルに、
     ゆっくりと、着実に」
 まずは私の働いている、精神障害者地域作業所についてお話しします。
「ささやかに、シンプルに、ゆっくりと、着実に」これが私たち4つの施設を運営するNPO法人「精神保健を考える会 『まいんどくらぶ』」の基本的な考えです。

地域活動支援センターとは
 私たちの4つの作業所は地域活動支援センターといって横浜市が補助金を出して行なっている事業で、このうち地域活動支援センター精神障害者地域作業所型は市内60箇所あります。施設は川崎に近いので川崎在住の方からも入所の相談を受けるのですが、残念ながら横浜市内に住む精神障害の方だけが対象となります。似たようなカテゴリーに障害福祉サービス事業所として就労支援継続B型施設もあり、こちらは住んでいる地域に関係なく利用できますが、活動内容は「就労」に重きを置いているところが多いです。

 

 

 

 登録人数は20人から25人位です。そして実際の1日の利用メンバーさんは10人から15人程度です。その日の状況(病状などにより)で来られなくなる方もいるので、このくらいになります。朝起きてこられなくなる方、来ると元気になって作業する方、ずっと寝ている方、打ち合わせだけで帰ってしまう方、本当にさまざまな方がいます。メンバーさんの年齢は以前、10代の方がいましたが、現在は20代から70代、一番多いのは30代から50代です。通所方法は公共交通機関をつかっていただいています。

 送迎サービスはありません。メンバーさんの中には、バスや電車のような場が苦手な方もいますので、歩いて通っている方も多くいます。

 メンバーさんとは施設と利用契約を結んでいただきますが、利用料はありません。月に数度みんなで材料を買って美味しい料理を作って食べるランチ会や楽しいレクリエーションの時には負担金をいただいています。

まいんどくらぶの作業所紹介
 まいんどくらぶの作業所を紹介します。まずは1984年に横浜市精神障害者家族連合会「浜家連」が小さな家を借りて作った「ひかり作業所」で、内職や木工品などを作っていました。次第に小さな木工製品から、家具の製造まで手がけるようになり現在は「HIKARI」という名前で活動しています。次に「セサミ香房」。同じく浜家連の10番目の作業所で、HIKARIからのれん分け的に生まれました。クッキーなどの焼菓子はおかげさまで評判が良く、さまざまなところに利用していただいています。おそらくどこかで食べたり、目にされてるかたも多いと思います。
 この二つの作業所は「浜家連」が運営していたのですが、地域での支えあいを深める中で1993年に市民団体「まいんどくらぶ」を立ち上げて、2002年に浜家連からまいんどくらぶに運営母体が移りました。

次の二つの作業所「四季菜館」と「リンデンカフェ杜」は、まいんどくらぶが設立しました。
「四季菜館」は地元の素材を使ったジャムやお菓子作りなどが活動の主体となっています。
私たちの施設で作る製品のレシピはオリジナルで、関わっているボランティアさんやスタッフは料理好きの方が多く、自分で工夫しながら作ったレシピを提供していただいたり、作業所で工夫を重ねてより良いレシピを開発しています。
そして「リンデン」は2011年に開所した作業所です。現在、私が施設長をしていますが、4つの施設の中で最もゆったりゆっくりしています。おそら私の性格が反映されているのでしょう。
最後の「カフェ杜」は、まいんどくらぶが2001年からボランティアさんを中心にして運営してきた店を2011年にリンデンが引継ぎ運営しています。現在はコロナで営業はしていませんが、時期を見て再開しようと思っています。

駆け足写真紹介
セサミ香房
これがセサミ香房。私が最初に入職した施設です。ここで製造しているお菓子はとても評判がよく、お土産やセットの贈答品にも利用いただけます。

クッキーを製造しているところです。

これはマドレーヌを作っています。焼きたてを試食するととても美味しいです

セサミでは、お菓子の製造以外に織物や手工芸品も作っています。

これは『まいんどくらぶ』の合同クリスマス会の様子ですが、不肖、井上が渾身のかくし芸「皿回し」を演じているところです。苦節20年以上で、さまざまな
小道具も揃えていますので、どんなオファーにも対応できると思います。

地域活動支援センター

「リンデン」「カフェ杜」

「カフェ杜」は「リンデン」から少し離れたところにあります。

リンデンではコーヒー豆の焙煎もやっています。

これは割れた豆や不良豆を選別するハンドピックです。当店のコーヒー豆の味はメンバーさんたちの繊細な仕分けで成り立っているのです。

こちらは手工芸の組紐細工の制作です。

こちらはリンデン特製のビスコッティとトマトクラッカーです。他では味わえない味が味わえます。近くにお寄りの時には、ぜひどうぞ。

私たちの作っている製品を皆様に紹介するべく多くのバザーやイベントに参加しています。また施設長自ら、持っているあらゆる能力を駆使してみんなで楽しんでます。

利用者さんとメンバーさん
 ところで多くの福祉施設では施設を利用されている方を「利用者さん」と呼んでいますが、私たちは「メンバーさん」と呼ぶこともあります。それはこの施設に求められている一番大きな機能が「居場所」だからだと考えています。利用者さんというとどうしても福祉サービスを提供している側と、利用する側に分かれている意識が強いです。でも私たちは日々同じ場所で同じ時間を過ごしていく中で、共に集う「仲間」なんだと感じています。所属している安心感、誰かとつながっている感覚が「メンバー」という言葉に現れているように思うのです。サービスを利用する「利用者さん」より「メンバーさん」の方がしっくり自然に感じています。

メンバーさんからいただいた言葉
障害者福祉に素人の私が、お菓子目当てにセサミ香房に入職して25年、右往左往しながら壁にぶつかり、職場の先輩やメンバーさんから、手取り足取り教えられ支えられてなんとかやってこられました。その都度、メンバーさんから、多くの言葉をいただいてきました。それを振り返ってみました。

「丸島さんは丸島さんでいいんだよ」
これはセサミ香房に入ってまもない何もできない私が自分を受け入れられずに、焦ったり落ち込んでいたりしていた時に、メンバーさんからいただいた言葉です。私は私以外の人になる必要はない。私が私のままでいいんだ。そこから少しずつ自分を開いていったような(居直ったような?)気がします。今でも大切にしている言葉です。

「私は宝石を掘り出す一坑夫にすぎぬ 但し、ひとりひとりに心をこめて」
これもいいですね。私がメンバーさんを導いたり変えたりする必要はないのです。元々、ひとりひとりの方自身が、かけがえのない美しい宝石であり、それを心をこめて掘り出すお手伝いをしているのです。

「僕は自分の結婚式の日に保護室の窓から空を見てたから」
私の結婚式に、周囲の方々のお祝いの言葉をまとめて送ってくださったメンバーさんの言葉です。このメンバーさんはとても優秀な方で、上司の紹介でお見合いをして、結婚することになりました。しかし内面では病状が悪化しており、結婚式当日にその大きな重圧からバランスが崩れて、入院となってしまった方だったんです。ご自身の体験を伝えてくれて、その上でお祝いして下さったことが強く心に残っています。


「判定しない」
これはいまだに私のテーマですが、メンバーさんの相談でも、こちらの中途半端な価値観による判定をしてはいけないんです。私の中途半端な判定で、どれだけ相手の気持ちを拒否したり、傷つけてしまうかわかりません。私たちのできることは、メンバーさんの言葉を、ただただ聞くことくらいなんです。まだまだだめだなあ私は。

「答えは相手が持っている」
これもメンバーさんからいただいた言葉ですが、結局、相談されてもその答えは相談者自身が持っているのです。相談は相談内容を言葉にしながら、自分でその答えを探っているプロセスの一部なんですね。ですから相談で答えが出る必要もないんです。これは私自身にも言える言葉です。

「お互いの人生が支えられて、その人でなければ納まらない出会いがある」
これも深いですね。私自身の人生を振り返ってみても本当にそうだと思います。

 

 

改めて「ささやかに、シンプルに、

      ゆっくりと、着実に」
 そして冒頭のところに戻ります。私たちは改めてこの4つ「ささやかに、シンプルに、ゆっくりと、着実に」を柱にして日々進んで行きたいと思います。
ありがとうございました。
 25年間を振り返っての一番の失敗ですか?今でも日々失敗の連続ですが、最近で大きいのは、やはり相談業務でメンバーさんの言葉に対して正論で返してしまったことですね。正論で返すということは相手が正しくないと拒否していることにもなるんですね。さっきの「判定しない」と重なるのですが、こんなだめな私でも暖かくメンバーさんは支えてくださるので、日々私も勉強しています。

 

T.eng氏の感想
最後のメンバーさんたちの格言のような言葉がかっこよく、とても大きく感じました。これは、ある意味メンバーさんならでは視点での人の本質を突いた言葉かと思います。

校長の感想
 前回の井上さんのお話で就職するところまでたどり着き、今回は1年ぶりにその続きを実現できたのですが、今回も40分という枠が短く感じました。特に後半のメンバーさんたちの言葉をさらに丁寧に掘り下げたかったのですが、これは次の機会にということですね。
 また始業前に井上さんの推しがサカナクションという話が出てました。井上さん曰く「ファンクラブに入ってライブを楽しみにしていたらコロナでライブが中止、少し落ち着いたと思ったら本人がメンタルの不調で活動停止と落ち込んでいたら、鬱状態から復活する様子をNHKの特番で取り上げられて、私の職場でのメンバーさんたちとも重なって『なるほど、あるある』と見ることができてよかったです」次の機会にこちらのお話も伺いたいと思います。さらに看護学校に通っているご長男のお話も伺いたいと思いますので、また相談させてください。

井上さんの感想
 日曜日は私も楽しい時間を過ごせました。私は話をきくことが多い仕事なので、話をすることで今までの振り返りができて、メンバーさんから教えてもらったことで今の私がいるんだなぁと改めて実感しました。貴重な機会を頂き感謝です。