「保育で
大切にしてきたこと」
〜男性保育士のお二人にお話を伺います〜
長瀬仁さん・佐越直人さん(保育士)
先日の多田図尋常小学校で、男性保育士の長瀬仁さんに保育のお話を伺いましたが、今回はさらにもう一人の男性保育士の佐越さんにもご参加いただき、お二人からお話を伺います。実はゲスト講師の佐越さんと長瀬さんとは、さらには無農薬野菜生産者の坂梨勝一さんも、ある保育園の元同僚です。
今回は子どものころは図鑑が大好きで、物事を俯瞰で捉えて言語化する長瀬さんと、子どもの頃は友達との遊びに夢中で、目の前に起きたことを直感的に捉えるという佐越さん。この対照的なお二人に保育を語っていただきました。
自分のために保育士になった
中城:保育歴23年の長瀬さんと18年の佐越さん。ベテランのお二人が保育を通して一番よかったことを教えてください。
長瀬さん:私はずっと保育士になりたかったので、保育士になれたこと自体が一番よかったことです。私は子どものためではなく、自分のために保育士になったのです。私自身が子どもの時に体験してこなかった目一杯遊ぶという体験を、保育士は仕事として体験できるわけですから。
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坂梨さん:私も畑でこどもたちと関わっている時には、畑や野菜について教えるのではなく一緒に体験するという感じなのです。気がつくと私の気持ちの年齢が子どもになるし、反対に子どもが大人になってきて、知らずとフラットな関係になれるんです。それが面白いです。
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佐越さん:私も保育の体験が自分自身の成長につながってきたと感じています。ギャーギャー騒ぎながら「嫌なものは嫌だ」と自分に真っ直ぐな子どもたちと向き合うことで、自分の思い込みや固定観念に気がついて変えていけるんですね。大人の用意したプランに、子どもの実情にあわない時には、子どもの声を聞いて見るほうが上手くいく。学校で学んだ何歳児の発達段階なんかも学んだ通りではないんです。
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中城:以前、長瀬さんに偏食の給食指導を伺ったときも、初めはあの手この手で、なんとか食べさせようとしたけど、今は子どもの意思を尊重して無理に押し付けないと言われていましたが、共通するものを感じますね。
長瀬さん:今の保育の状況も、そちらの方向に変わってきましたね。
手探りだった保育
中城:佐越さんが長瀬さんに出会って色々と刺激を受けたそうですが。どんな感じだったんですか?
佐越さん:私が保育で行き詰まった時に、長瀬さんのクラスに居させていただいて。。
中城:え?担任ではなく、どんな感じなんですか?
長瀬さん:あの保育園は担任が流動的で、1年間、この人が担任するという感じではないんです。このクラスのこの人が上手くいっていないようだから、明日からあちらのクラスにいってみようとか。そんな感じで私のクラスに来たんです。
中城:佐越さんはどんな感じだったんですか?
長瀬さん:佐越さんって、ずいぶん周りからいじられているというか、意見やツッコミをいれられているなあと感じました。
佐越さん:まだ私はどうすればいいかがわからず、この保育園でやろうとしていることを、私なりに探りながらやっていた感じでしたね。
長瀬さん:この保育園の方針は明確で「さくら・さくらんぼ保育園」と同じ方針だったのですが、ベースになる考えが複雑なので、それを理解している職員は少なかったですね。イメージでなんとなくやっている感じでした。私は入る前に「さくら・さくらんぼ保育園」の資料を読み込んでいたので理解はできていましたが。
佐越さん:私は専門学校で友人と保育について「こういう保育がいい」「ああいう保育をしよう」などと熱く議論していたのですが、就職時にそんな理想的な保育園は見つからないんです。仕方なく職員募集の案内パンフレットをめくって、自然志向の私は森の樹保育園の「森」「樹」の文字に惹かれて決めたんです。当然、現場に出ても学校で語っていた「子どもの願いを一番にする」「暮らしにつながった保育」などという思いは、どこかにいってしまいました。長瀬さんと一緒になったのは、入って3年目くらいで、周りからさまざまな要求をされ振り回されていた時です。私は自分を客観的に見ることが苦手で、自分が周りからどう見られているか、ほとんど理解できませんでした。立ち振る舞いまで指摘されました。
中城:具体的にはどんな要求ですか?
佐越さん:うーん、例えば「もっと男らしくしろ」などとも言われました。
中城:その時の男性職員は何人くらいでした?
佐越さん:結構多くて5−6人くらいですね。
色々な人がいる保育園
坂梨さん:佐越さんの、自由奔放なところはいいところでしたよ。私が引っ越しの仕事でこの保育園を知り「さくら・さくらんぼ保育園」の本を買い込んで全部読み、感動しました。それは勘違いでもありましたが、とにかく園長に「私も保育園で働きたい」と直談判すると保育補助ということで採用されたんです。屋上に畑を作って野菜を植えたり、ものつくりをしたり、子どもたちと関わっていました。
中城:そんな坂梨さんを見て、長瀬さんはどう思いましたか?
長瀬さん:本当にいろんな人が入ってくるなと思いました。それが面白く感じない人はいなくなりましたね。例えば、保育に直接関係がないのに、苦手な歌のトレーニングをやらされて「なんでこんなことをやらなきゃならないの」とやめた方もいました。
坂梨さん:それは「森は生きている」というミュージカルですね。プロの指導者が本格的なボイストレーニングをやるので、大変だったと思います。私は屋上の畑に逃げ込んでいましたが。やはり土や自然はいいですよね。今でも田んぼで30人くらいの子どもと田植えをすると最高に幸せです。ところで佐越さんは運動能力抜群でしたよね。体育館ぐらいの高さの天井から吊り下げられたロープを、いとも簡単にするする登っていってしまうのです。
佐越さん:僕は模倣が得意なんです。自分が作り出すのは苦手ですが。まず体が先に動かしてから、頭が後からついてくるような感じです。手足を動かすのが基本ですね。森の木保育園も知識より体験を大事にしていました。子どもたちが体験を通して成長する姿を見るのは最高です。
子どもの幼稚園を思い出す
中城:今回初参加の櫻井久美子さんは、今までの話を聞いて何か感じたことはありますか?