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940 多田図尋常小学校の人々「次回は冨田勲と久石譲を取り上げます」


●2限目(10:10~10:50)音楽
 
「Coffee Break Music In Tadaz」 
 本日のバリスタの気まぐれブレンド
「音響効果
           〜フォーリー〜」

   T.eng氏(音響エンジニア)

 
 
 
今回は前回(第50回)のジョン・ウィリアムズより映画つながりで進みます。題して「フォーリー」。映画あるいは映像の世界において「音は+1の役者」であるとか「映像と音は対等である」といわれるほど重んじられます。そのなかでも未知の音を作り上げる「フォーリー」の役目はあらゆる想像力を駆使してそのモノの性格を作り上げるいわば音の役者となります。ということで「音響効果―音効」の役目を司る「フォーリー」の世界に皆様をご案内いたします。
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フォーリーについて
 映像を作るには、撮影準備のプリ・プロダクションと、撮影後の作業のポスト・プロダクション(後編集)があります。ポスト・プロダクションは、映像編集、カラー調整、音楽編集、ナレーション、効果音を入れたり、DVDへのオーサリング、フィルムからマスターテープにデジタルダビング 
などの数多くの作業がありますが、 
フォーリーはその中でMA(
 
マルチオーディオ)での
効果音作りのことを指します。フォーリーとはハリウッドの効果音の達人ジャック・フォーリーの名前から来ています。その職人をフォーリー・アーティストと呼ぶこともあります。効果音は映画やゲームでも非常に重要視されています。ハリーポッターなどのSF映画では、存在しない音を作らなければなりません。例えばスターウォーズのライトセーバーなど効果音はとても重要な役割を果たしています。
 
いい効果音は登場人物の意識をも表現するわけですから「プラス1の役者」と言われます。
 
映画などでは現地で録音したものを使いますが、それだけでは当然不足するので音を追加合成することもあります。反対に自然さを再現するために雑踏など背景の音を追加することもあります。

 

フォーリーの歴史
 まずフォーリーの歴史から入ります。ハリウッドの初期1920年代にはラジオは生放送でした。マイクなどの録音技術もまだ発展途上で、蓄音機もスクラッチが多くまだ使い物にはならず、効果音は生で作っていました。大手映画会社のワーナー・スタジオで音を取り入れた「ジャズシンガー」という映画を公開し、対応を迫られたユニバーサルも音響つきの映画に対応しようとします。サイレント映画のミュージカル「ショー・ボート」の音響スタッフにジャック・フォーリーがいました。当時のマイクはセリフしか録音できないため
 
スクリーンに映画を映しながら、スタッフが俳優の動きに合わせて撮影後に作成録音した効果音を流しました。その後、ワーナーでは音が同期されたトーキー映画を導入し、ユニバーサルも1926年の「ドンファン」で音楽と効果音を入れました。特に音響の職人ジャック・フォーリーの仕事のレベルが桁違いで、そこから音響効果のことをフォーリーと称されるようになりました。なお、三谷幸喜が作った映画「ラヂオの時間」ではこうしたフォーリーの音作りの作業の様子が描かれています。欧米では早くからフォーリーの役割が認識され確立して行きましたが、日本ではあくまでも役者が優先されたため、その位置付けは遅れていました。何人かの日本の音響技師はフォーリーをやるために欧米に行きました。日本では映画よりゲームで音の作り込みが進みました。
 洋画で字幕版と吹き替え版ではどうしても音が違って聞こえます。吹き替え版ではMA作業をやり直すため、オリジナルと異なった機材を使ったり編集作業で担当者の考え方が入ってくるのです。効果音も含めて本来の音の迫力を楽しみたいときは、字幕版を聴いてください。

 

フォーリーの音の作り方
 効果音制作の世界はどんどん進化しており、昔は録音に1トラックだけでしたが、現在は100〜200トラックの製品はザラです。編集ソフトもどんどん出てきており、レコーディングスタジオで使われる「Pro Tools」などではソフト内エフェクターは標準仕様です。
 
ハードウェアとしてのエフェクターの一例 上段…YAMAHA SPX-2000(リバーブ)、下段UREI 1178(コンプレッサー)
 編集ソフトには効果音のライブリーがついています。例えば、足音に使う床材も木、アスファルト、コンクリート、御影石、砂利を敷き詰めた上に枯れ草を敷いた状態など、靴も革靴、スニーカー、ハイヒールなど。さらに階段も木製階段、豪華な石の階段、鉄製の非常階段などは当たりまえ。さらに食器、システムキッチン、エアコンの室外機の音など半端な数ではありません。これにマイクやエフェクターも組み合わせて選べます。
 映画のロケなどで外のノイズが入って録りにくい音、よりリアルな音が必要な時は、音を加工したり、さらには作ったりします。レーシング・ゲームで有名なグラン・ツーリスモ シリーズはその正確さ、リアルさで、FIA(国際自動車連盟)で公認されたくらいです。実際のサーキットを3日間借り切って制作したそうです。F1ドライバーのベッテルは、このゲームで細かいコースの特徴を覚えたと言っています。
 SF映画の音は現実に存在しない音を作りますが、人間は全く想像できない音は受け付けないので、どこかで聞いたことのある音を加工したりして作り込んで行きます。その方が人間の脳が紐付けできるので、安心して受け入れるのでしょう。1954年のゴジラの声を作った時も、劇音楽を担当した伊福部昭は緩めにしたコントラバスの弦を松ヤニをつけた革手袋で擦った音を元に加工しました。他にも鳥や獣の声を試したのですが、どうも爬虫類っぽくないといずれも却下されました。

 

 

フォーリーの機材の使い方
 効果音の録音は通常の音響機器と違った使い方もします。例えばライブで使われるピンマイクをあえて床に固定して効果音を録音して使ったりします。また水分厳禁のマイクを最低限の防水処理をしてあえて水飛沫の中の音を録ることもします。編集でも編集機材のイコライザーは本来は音のムラを抑えるためなので弱く補正をかけますが、それを反対に強調して使って臨場感をあげたりもします。

 

 

 

ミキサーに装備されているイコライザーの一例 緑のツマミが周波数帯域選択、水色のツマミが音量調整。
 
 一例として私が高級腕時計のCMのために作成した「機械式腕時計の音」音を作ったプロセスをご紹介します。そもそも機械式の腕時計などほとんど流通していません。あっても腕時計の音は小さすぎて、普通の録音機材で録ることも困難です。そこで柱時計の音を試したのですが全くダメです。ふと浮かんだのが、ハサミで切る音でした。それも切った時の音ではなく、切った後に戻る音です。その音を加工して、早めに反復させたのが、この音です。かなりいい音に仕上がったと思います。
雨宮真由美さんの感想
 私は映画が好きで年間200本くらい見るのですが、今日は知らなかったフォーリーのお話が聞けて、とても面白かったです。実は私は視覚障害者の方に映画を楽しんでもらおうと音声ガイドのボランティアをやっていますが、映画を見終わった後の感想が面白いんです。あそこのシーンのハイヒールの音が怒っていたとか・・。 
私たちがあまり気にしないような小さな音もしっかり聞いて受け止めているのです。
 
画像情報が入らないので頼りになるのは音だけです。画面の動きは音声ガイドでお伝えしますが、音はセリフと効果音だけです。だから効果音が雑な映画だと内容が伝わりにくいのです。ちゃんとした効果音が入っていれば、その画面が生き生きと浮かび上がっているのですね。結局、映画を生かすも殺すも効果音次第なのですね。だから今回、効果音のお話はとても納得できました。

 

長瀬仁さんの感想
 フォーリーについて面白い話をありがとうございました。ところでフォーリーというのは、映画の効果音、例えばドアノブの音のことを指すのですか、それともフォーリーを作る役目のことを言うのですか。
T.eng氏:簡単に言えば、効果音を作る人のことです。

 

古川信夫さんの感想
 私も映画が好きでよく見ますが、効果音フォーリーのお話は初めて知りました。特にゴジラの声は、緩めのコントラバスの弦を擦った音で作ったのは興味深かったです。退職してからはNHKのBSでジョン・ウエインなどの西部劇などもよく見ます。牛の暴走の音などはどうやって作るんですか?
T.eng氏:今は高性能ガンマイクでなんでも録れますが、当時は牛の鳴き声と、板の上に土を重ねて、牛のひずめのような硬めのものを叩いて録った音を繰り返し、それを重ねたりしたのでしょう。

 

校長の感想
 効果音については「昔のラジオ放送は柳こうりに小豆を入れて波の音を出す」くらいしか知識がなかったのですが、今回のお話を聞いて映画にとってとても大きな存在だと言うことを勉強しました。ありがとうございました。

 

T.eng氏の感想

 次回は冨田勲と久石譲を取り上げます。古川さんの話はちょくちょく聴いていたので音楽談義や本談義をレコードを囲みながら近いうちにやりたいところです。